【レビュー】『OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者』~『アナザーエデン』と双璧をなすシングルプレイスマホRPG~
2018年に発売され、世界累計出荷数とDL販売本数の合計は既に200万本を突破している正統派の王道RPG『OCTOPATH TRAVELER』(以下:無印)。その数年前の世界を舞台にした新作『OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者』(以下:本作)がスマホゲームとして登場した。
ジャンルはシングルプレイRPG。スマホにおけるこのジャンルのパイオニアが『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下:アナデン)である。私がアナデンをリリース当初からプレイしており、かつ無印もプレイ済みなのでここではそういった視点からもレビューを記したい。なお、レビュー記載時点では後述する富・権力・名声のストーリーをいずれも第2章までクリアしている。
まずゲームを起動して最初に気になったのはトップ画面に入る前の注意書き。そこには「本作はシングルプレイRPGです。コンテンツは定期的に追加されますが、ご自分のペースでお楽しみください。」とある。
一定期間ごとに区切ってイベントを開催するのではなく、アナデン同様に1度追加されたコンテンツはその後いつでも遊べるという形式を採用するのだろう。これにより、スマホゲームにありがちな「あの時はまだプレイしてなかったから特定のキャラが入手できない、過去のイベントが体験できない」といった問題が解消でき、どのタイミングで始めても漏れなくゲームの世界を堪能できる。またシングルプレイなので他のプレイヤーと何か競争があるわけもなく、ある種の義務感のようなものを感じながらゲームを遊ぶ必要もない。本作がそういう性質のゲームであることを冒頭で明示しているのが個人的にとても好印象だった。
プロローグをなぞり、バトルなどチュートリアルを完了するとプレイヤーは富・権力・名声にまつわる3つのストーリーから1つを選択し開始することになる。ただ、選ばなかった2つもすぐに並行して進めることができるのであまり悩まずに気になったものを選んでしまっていいだろう。
さて、いよいよ旅立ちとなるが仲間が少ないのは心許ない。となると導き(ガチャ)で仲間を獲得…となるのだが、やはり無印をプレイしている身としてはガチャで仲間が増えるというのはどうしても違和感がある。1つの新規スマホゲームと考えればそうでもないのだが、OCTOPATH TRAVELERのシリーズでとなると…まぁこればかりは仕方ないだろう。
そしてもう1つ違和感を生じさせるのが
「旅人が9人以上いるー!!」
という点だ。果たしてオクトパスとは…とはいえ、無印とは違い長く運営していく計画の中でキャラが8人しかいないというのは流石に難しいだろうからまぁこれも仕方ない…か?ただそんな本作では8人というのが違う形で表現されている。
1パーティの編成人数が最大8人なのだ。前衛の4人が戦い後衛の4人は待機して毎ターンHPとSPを回復する。なお前衛後衛は2人1組のようになっていて、戦闘中は交代のコマンドで適宜該当のキャラ同士を入れ替えることができる。後衛から前衛に上がってきたキャラはそのターンからコマンドを実行でき、戦略を考える上でも重要な要素となる。
ちなみに上のスクショをご覧いただいて気付くかもしれないが、左下には累計のプレイ時間が表示される。スマホゲームらしからぬ演出だが、家庭用ゲームのRPGのような感覚を味わうことができる。
バトルでは無印に存在していた戦闘中の回復系アイテム使用や防御といった一部のコマンドは本作では見当たらないが、基本的には無印を踏襲している。本作でも変わらず、バトルの肝はBPの管理とブレイクだ。無印プレイヤーにはおなじみだが、ターン開始時に貯まるBPを消費することで攻撃回数を増やしたり効果を上げることができる。また敵にはそれぞれ弱点があり、該当の武器種や属性で攻撃するとシールドポイントを1つ減らすことができる。シールドポイントが0になると…
ブレイク状態に。ブレイクしたターンとその次のターン中、敵の防御力は低下し行動不能になるので一気に勝負をつけるチャンスだ。ただし章ごとのボスクラスになるとブレイクまでに必要な攻撃回数も多くなったり、1回のブレイクでは仕留めきれなくなるのでブレイク時に畳みかけるためにBPを使うのか、ブレイクさせるためにBPを使うのかの判断を前衛後衛のやりくりと合わせてすることになる。コマンド式RPGというオーソドックスな形式ではあるものの、これらの仕様が相まってスマホRPGの中でも戦略性は高く、ちゃんとバトルが面白い作品に仕上がっている。
そしてOCTOPATH TRAVELERらしさといえば、やはりフィールドコマンドである。無印ではNPCの持ち物を盗んだり彼らを助っ人として雇うことができ、序盤から強力な装備を使ったりここぞの局面で手練れの傭兵を起用したりして戦うことができた。王道RPGの中で異彩を放つ奇抜なシステムとしてプレイヤーに選択の幅を与えたものだった。
本作においてもコマンドの種類こそ多少変わっているものの、無印とほぼ同じような形で活用できる。ただし、本作では装備にレベルの概念があり、指定のレベルまでキャラを強化しないと装備できないといった制限もあったりするので無印と同等の自由さがあるわけではない。
ある程度の時間プレイし続けてもスマホゲームっぽさはあまりなく、むしろ家庭用ゲームのプレイフィールに近いとさえ感じる。数少ないスマホゲームっぽい部分といえば「功績」だろうか。デイリーやウィークリーの任務があり、達成すると報酬が得られるシンプルなものだ。
気になるストーリーについてはネタバレ防止の意味も込めてあまり触れないことにするが、ここまでの印象としてはまさしく重厚という感じでじっくり腰を据えて楽しみたいと思わせる内容で、本格派のストーリーを求めている人にも勧められるクオリティに仕上がっている。1つ気になるとすれば旅の動機だろうか。無印では8人がそれぞれ異なる目的から旅に出てその過程を追っていくため、各キャラの視点から冒険の意義をはっきりと掴むことができたが、本作では数多くのプレイアブルキャラの1人が選ばれしものになったからという理由のため、動機づけがやや薄く感じられた。主人公がプレイヤーの分身という感じがあまりしないのが私にとってはやや没入感が失われる要因になっているのだろう。ただメインストーリーとは別にキャラごとのストーリーもあるのでそちらでの深掘りも期待できる。
そしてサウンド。無印の時から非常にいいと感じていたが、本作でも同じBGMも採用されている。個人的には戦闘時のBGMがとても気に入っていて、「王道RPGのBGMたるや、かくあるべし」というのが体現されているように感じる。
さらにもう1つ是非見てほしい箇所がある。本作の公式サイト内に取扱説明書という項目があるのだが、これが実にいい。なぜなら、往年の家庭用ゲームにおける紙の説明書の懐かしさを連想させるからだ。プレイフィールを踏まえても、これまで多くのゲームを遊んできたけれど、実はスマホゲームはあまりプレイしたことがないという方のスマホゲームデビュー作としても適していると思う。
さて、冒頭で述べた通りこのF2P型シングルプレイRPGのスマホゲームにおけるパイオニアはアナデンなのだが、おそらく本作とアナデンの間には特殊な関係があると思っている。
アナデン初代プロデューサーの高大輔氏は無印の発売前にTwitterで期待を寄せるコメントをしていたし、実際そのあとスクエニに活躍の場を移している。その後、アナデンの夢見(ガチャ)不具合が発覚して以降高氏は雲隠れのようになっているが、さらにそこからしばらくして本作がシングルプレイRPGとして発表された流れを見るに、アナデンで培った経験を踏まえてスクエニで本作に参与していた可能性は高いのではないかと考えられる。
そして実際、アナデンから影響を受けたのだろうと思える個所も存在している。例えば有償通貨購入時の感謝メッセージはまさにそれで、他にもUIや一部仕様などアナデンの良い部分は積極的に吸収している感すらある。
個人的には本作の登場により、今から3年半も前にシングルプレイRPGとして生み出されたアナデンは当時を振り返ると相当に革新的な存在だったのだということを再認識するきっかけにもなった。
まだシングルプレイRPGというのは数として決して多くはない中で、1つ新たに大きな期待が持てる作品が登場したことは喜ばしい。今後のコンテンツの追加速度は気になるところだが、既にロードマップも公開されているのでそちらもチェックしておきたいところだ。
本作は10月28日に配信開始となったが、翌29日からはアナデンで『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』とのコラボ第2弾が開始されており、こちらも新規プレイヤー歓迎の状態となっている。2つのシングルプレイRPGが始めどきでどちらも未プレイの方は悩ましいかもしれないが、シングルプレイRPGの特権的なものでどちらも自分のペースでコツコツ楽しめるため、この際両方とも遊んでみる!というのもいいだろう。
※本レビューで用いた『OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者』の画像に関するコピーライトは以下の通りである。
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『OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者』公式サイト
『OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者』App Store